ECO日記

密着!飼育員の卵たち⑥「動物の命」を考える(前編)

みなさんこんにちは!元飼育員の講師ふくちゃんです!

 

今日のブログは、福岡ECOの学生たちがどんな授業を受けているのかをご紹介する「密着!飼育員の卵たち」シリーズの第六弾です!

 

…ただ、今回は第五弾までとは毛色のちがう「動物の命を考える」というテーマの記事です。

(真剣な内容ですが、怖い話ではありません…!)

 

実は、僕は飼育員を目指す学生たちにむけて、授業の中で

 

「あなたは動物の安楽死に賛成?反対?」

 

という、なかなかヘビーな問いかけをします。

 

そもそも「安楽死」とは、「苦痛を与えず死に至らせること」を意味する言葉です。

実は動物業界では、「動物がケガや病気などで回復の見込みがなくなり、苦痛を感じている状態が続くケース」などに、薬品などを用いて動物を安楽死させることがあるのです。

 

(後編で書きますが、日本の動物園で安楽死が行われるケースはかなり少ないです)

 

授業の中では、学生たちにより具体的に考えてもらうために、こんな話をします。

 

「あなたはキリンの飼育員です。あなたが担当しているキリンに赤ちゃんが産まれましたが、大けがをしてしまい、獣医師は『自力で立てるように回復するのは無理だ』と診断しました。あなたはこの赤ちゃんキリンを、安楽死させますか?」

…この授業の目的は、僕のなかでは「動物の命の価値を一度真剣に考えてみる」ことと、「自分とはちがう考えを持つ人が存在することを知る」ということ。

 

そのために、自分の考えをまとめる時間をとったあとで、学生たちを5~6人ずつのグループ分けてグループワークをしてもらいます。

グループワークの内容は、「全員が自分の意見を述べ、そのすべてをグループごとに発表する」というものです。

 

ここで、実際に学生たちが発表してくれた意見を、安楽死賛成派と反対派に分けてご紹介します。

 

 

■賛成派の意見

 

・回復の見込みがないのなら、キリンが苦しむ時間を少しでも短くしてあげたい。

・いろいろな方法を考えたり試したりしたうえで、どうしようもないのであれば、安楽死させてあげたほうが可哀想じゃないと思う。

 

 

□反対派の意見

 

・最期の瞬間まで諦めずに、手を尽くすのが動物を飼う人間の責任だと思う。

・何とか回復させる方法を考えて試すことで、もしキリンが死んでしまったとしても、いつかその経験が活きて他の動物の命を救えるかもしれない。

 

 

…と、どちら側の意見も「うん、そうだよね」と頷けるものばかりでした。

 

もちろん、この問いには正しい答えは存在しません。ですが、動物の命をあつかう仕事をするのであれば、答えのない問いと向き合う力も必要だと思います。

 

なので、学生たちの意見を聞いたあとには

 

「動物を飼う仕事をしていると、こんな風に難しいことを考えないといけない場面があるんだよ。答えは存在しないけど、『自分の考え』を持てるようになってね」

 

と伝えるようにしています。

 

…ちなみに、この授業は「日本と欧米の動物観のちがい」という話につながっていきます。

 

実は、人間の動物観(動物を「こういうもの」と考える捉え方)をくらべると、日本と欧米の間には大きなちがいがあることが分かっているのです。

 

例えば、獣医さんを対象にしたアンケートでは、日本の獣医さんよりもイギリスの獣医さんのほうが「動物の安楽死に肯定的な人が多い」という結果が出ています。

 

でも、これは日本の獣医さんのほうが優しい…という話ではありません。

 

じゃあ、どうしてちがうの…?という部分は、次回の後編で詳しく解説していきます!

 

それでは!

 

 

 

この記事を書いた人…元飼育員講師ふくちゃん

福岡ECOの卒業生。動物園とサファリパークで13年間、飼育員をしていました。好きな動物はフクロテナガザル。担当していた動物は、ゾウ、チンパンジー、キリン、トラなど。現在は福岡ECOで動物や動物園についての授業のほか、文章表現についてのゼミを担当しています