ECO日記

飼育員ってどんなお仕事?⑤ 【人工哺育のヒミツ後編】

みなさんこんにちは!元飼育員のふくちゃんです!

 

前回に引きつづき、飼育員が動物の赤ちゃんを育てる「人工哺育」のヒミツを紹介していきます。

 

「動物園の飼育員って、どんなお仕事をしているの…?」

 

という参考にしてみてくださいね!

 

さて、僕は飼育員時代に「フクロテナガザル」というおサルさんの人工哺育を経験しました。

 

産まれたばかりの姿がこちら。

  

 

この子が産まれたのは、冬の寒い日のことでした。お母さんがお世話をする様子がなく、見るからに弱っていたので「このままだと命があぶない」と、人工哺育をすることになりました。

 

体温を測ると、32℃まで計測できる体温計に「エラー(計測不能)」という表示が。これは「体温が32℃を下回っている」という証拠で、とても危険な状態でした。

 

(人間の場合、体温が31℃以下になると命にかかわり、28℃以下になると死亡率がかなり高くなるそうです)

 

すぐに暖かい部屋に移動し、飼育員の体温や柔らかい湯たんぽで体温を上げることに。幸い処置が間に合い、赤ちゃんは少しずつ顔色がよくなっていきました。

 

おサルさんの赤ちゃんは、自分の力では「ちょうどいい体温」を保てません。なので、一日に何度も体温を測って、体温が上がりすぎたり下がりすぎたりしないようにチェックしていました。

 

体温が安定すると、次はミルクです。

おサルさんは人間と母乳の栄養素が似ているので、人間の赤ちゃん用のミルクをあたえます。哺乳瓶は子ネコ・子イヌ用の小さなものを使っていました。

 

(ライオンの赤ちゃんにはネコ用ミルク…など、市販のミルクの中で、その動物に最も近い栄養素が含まれたミルクを使います…!)

 

はじめは一日に六回ミルクをあげていましたが、体が成長してくると、五回、四回…と少しずつミルクの回数を減らしていきます。

産まれて一か月くらいの間は、思うように体が成長せず、

 

「どうしたらいいのかな…」

「育て方が間違っているのかな…」

 

と、毎日試行錯誤していました。

 

 

この写真は、産まれた時に500グラムだった体重が、やっと600グラムになった時に撮ったものです。ほんの100グラムの成長ですが、とっても嬉しかったのを覚えています…!

 

一歳になるころにはミルクを飲まないでも大丈夫になり、オトナのフクロテナガザルと同じエサを食べられるようになりました。

 

あんなに小さかった体も大きく育ちました。めでたしめでたし…

 

 

…と言いたいところですが、実はそういういうわけにはいきません。

 

なぜかというと、動物を人工哺育するのなら、本当に大切なのはここからだから。

と言うのも、人工哺育で育った赤ちゃんのゴールは「ミルクを卒業すること」ではなく、「オトナたちと一緒に暮らして、幸せに生きていくこと」なんですよね。

 

そのためには、なるべく早い時期からオトナたちと会わせたり、一緒に過ごす練習をしたりして、スムーズにオトナたちとの暮らしを始められるようにしないといけません。

 

これができていないと、せっかく人工哺育で体が成長しても「オトナたちと馴染めない」「ずっと一頭だけですごさないといけない」などの問題が出てしまいます。

 

そのため、人工哺育をする飼育員は「この子が成長した後のこと」をしっかりと考えながら、お世話をしないといけないんですね…!

 

 

…さて、人工哺育のお話はこれでおしまいです。

 

「飼育員って、いろいろ考えながらお仕事してるんだな~」

「『動物の一生がどうなるか考える』のって大切なんだな~」

 

ということを知ってもらえると、とっても嬉しいです!

 

それでは、今日はこのあたりで!

 

 

 

この記事を書いた人…元飼育員講師ふくちゃん

福岡ECOの卒業生。動物園とサファリパークで13年間、飼育員をしていました。好きな動物はフクロテナガザル。担当していた動物は、ゾウ、チンパンジー、キリン、トラなど。現在は福岡ECOで「陸上動物」「動物園・水族館研究」「アニマルヒストリー」「動物園飼育論」「文章表現演習ゼミ」の授業を担当しています。